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「先生、アイツまたあの白いキャンバスで提出したんですか!?」
「まぁ、駄目では無いからね。作品としては問題有りなんだけど……。」
美術部。その学校ではサボり部と名高い部活。そんな場所でもコンテストやら作品展への応募やらはあって、真面目に提出する人間だっている。
だというのに、そんな部員すらも嘲笑う様に、いつも真っ白なキャンバスを提出する生徒が居た。
「いや、駄目でしょ!? もういっそ、サボるだけしててくれた方が良いって言うか!? あんな何も書いてないキャンバス、邪魔になるだけなんです!」
「でもねぇ。芸術なんて、わかんない物なのよ。知ってる? ゲルハルト・リヒターのBlood Red Mirrorって作品は、過去に110万ドルで落札された。日本円にして一億なんだけど、何が描いてあると思う?」
「ブラッドレッドミラー? 血……赤……鏡?」
「赤、で正解。赤一色のキャンバス。赤しか無い。それで一億よ?
……芸術なんて、そんなもんなのよ。分かった?」
「美術部の先生の意見がそれでいいんですか!?」
審査員達も良くも悪くも芸術家だしね、と溜息を吐いた女教師に、同じく溜息を吐くしか無くなった生徒が、目の前の白いキャンバスに視線を集めた。
ただただ白いキャンバス。木枠に、布が貼られただけのキャンバス。額縁だけが、色と言える唯一の物だろう。
「エントリータイトルは『桜』。こんな真っ白なだけのキャンバスの、何処に桜があんだよ何処に!」
「あの額縁の素材、確か桜よ。」
「木製の額縁の方が作品ってオチですよね!?」
「それなら彫刻作品で出品させるわよ……。」
奇しくも此処は、既に作品の展示場。芸術家である審査員達が、作品に評価を付ける為に展示場内を練り歩いていた。彼等は道行く作品に小さく議論を交わしながら、白いキャンバスの前まで来るとピタリと脚を止めた。老年の審査員が顎髭を揺らす。
「やぁ、また例の『白いキャンバス』ですか。先生。」
「はい、その通りです。遂に生徒からもクレームが有りまして……。」
「だってこんなの作品じゃないですよ!! ねぇ!!」
「コラコラお若いの、落ち着きなさい。それを決めるのは君じゃない、此処では私達という事になっている。ささ、皆さん。この作品をどう思われますかな?」
眼鏡の男は言った。
「これはそもそも作品ですか?」
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