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そう決めてからの生徒の行動は早かった。絵を取り付ける為に様々な工具が展示場には用意されていたその会場。当然絵を取り外す為の工具もある訳で、生徒はネジを外す為のインパクトドライバを借り受けると額縁を外すべく右手に携え、左手は白いキャンバスに添えた。
その行動を咎める者は居ない。何せそこにあったのは、展示場という空間にある事そのものが異常な、手付かずに見えるキャンバスであったから。何より他人にとっては、他校の人間にとっては、誰がどの絵の作者なのかは知らぬ存ぜず。つまりは、生徒は女教師と審査員達の眼を盗みさえすれば、この絵をどうとでも出来た。
そうしてカパリと、額縁の一部が白いキャンバスから外れた。当然ながらずしりとした確かな重みが生徒の左手に集中する。そして違和感。
「…………?」
どうしてか、ぐにゅりとした感触が親指に触れている。
生徒は『成程これが額縁の小細工なんだな』と生徒はその理由を確認し、目視し、触診し。
そこにある物と、眼が合う。
「ヒッ、っうわあああああッ!?」
そして生徒は、衝動のまま額縁を放り投げた。
そう軽い物では無いので遠くへと飛ぶ事は無く、鈍い音を立てて足元に額縁は転がる。その音を聞き付けて、他の作品を見ていた審査員達は慌てて駆け寄ってきた。
「何だね? 一体何があった!?」
「が、がくぶちに、」
「額縁って、コレですか?」
「さ、触っちゃ駄目です! 触らないで下さい!」
「…………??」
額縁の内側は、空洞だった。彫刻刀で抉ったように空間が作られていて、外側からは分からない形になっている。そして問題は、その中身だった。
空洞部分に詰められていた、ぐにゅりとした何か。それは中身が漏れないように袋に詰められていた。
「なんで……なんで、あんなの、額縁に、」
「ちょっと、大丈夫!? 凄い音がしたけれど、」
「ああ、先生! 貴女の生徒さんの様子が、可笑しいんです!」
「さく、ら? 桜だから? なんだよあれ、どういう、どういう意味であんなの!!」
「アレは、あのキャンバスの額縁……? ねぇ、何があったの?」
「せ、せんせ、」
「落ち着いて。深呼吸、深呼吸。」
ゆったりとした展覧会の空気が一転、周囲で素知らぬ顔をしていた人間達も騒然とし始める。
……それを遠目で眺めていたパーカーの青年は、『遂にバレたか』と愉快そうに独りごちた。
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