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「因みに訊いてやるが、アレのタイトルは何だ?」
連れ添うスーツの男が凄みのある声で青年に問う。パーカーの青年は『桜』、と呟いてその先を続けた。
「『桜の樹の下には死体が埋まっている』って言うじゃない。アレだよアレ。桜がピンク色なのは、人の血を吸い上げてるからだ、なんてのも言うよね。
だとすると、可笑しいよ。ピンク色って、赤と白を混ぜなきゃ、作れないのに。
……だから思ったんだ。死体に繋がる死後の世界とやらは何にもない、真っ白な世界なんじゃないかって。
桜がピンク色なのは死体の血の色と、あの世の真っ白な色を吸い上げて、咲いてるからじゃないのかなって。」
だから、桜の木で出来た額縁の。
その下に死体を埋め込んで。
一番下が真っ白なキャンバス。
「だからあの絵は、壁に立て掛けて見る絵じゃないのさ。アレは、床に置いて見るのが正しい向きってワケ。でも展示場となると、その辺の融通が効かないんだよね。」
「クソッタレめ……お前は人の命を何だと思ってるんだ!?」
「大事に思ってるよ。だから動かないゴミになってからも、無駄の無いように芸術として使ってるんだけど?」
「ジャンク・アートだとでも言いたいのか……!」
「正しくそうだよ、僕の作品はジャンク・アートだ。廃物美術の、廃品美術。ゴミとなる物を再利用し、創作された芸術品。つまりは僕の『桜』の事だ。これであれば、死んだ人間にも価値が宿る。
遺体を丁重に扱うって、こういう事じゃないの?」
会話を遮る様に、けたたましく鳴るサイレン音。やれやれと肩を竦めてパーカーの青年は愚痴を零した。
「まぁ……ゴミから作ろうが絵の具から作ろうが。理解されなきゃ無価値なんだから、芸術なんてこんなもんだよね。」
あ、いっそキャンバスを血染めにすれば良かったかな?
一億ぐらいで売れたかも。
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