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霊能者が“絶対に入ってはいけない”なんて言っただけ、という。実に曖昧でよくわからない話である。そもそも、なんでそんな偉い霊能者サマとやらがこんな普通の公立小学校にいるのだろうか。創作するにしてももう少しマシな設定を考えればいいのに。
そう、私は実のところ――噂そのものはまったく信じていなかった。ただ、生徒でなければ堂々と入れない夕方の学校の雰囲気と私の可愛さを楽しんでもらって、動画の閲覧回数が稼げればラッキー!というくらいである。
もちろん、オバケが出てきてくれても大歓迎だ。ガチのものが映り込めば、それだけ閲覧数もがっぽり稼げるだろうから。
「せんせー達はまだ残ってるので、バレないようにバレないように…遠回りして此処まで来ましたー。見つかれば早く帰れとか煩いですからねー!!」
話しながらトイレを撮影する。西棟四階のトイレは、四階に教室がある五年生くらいしか使わない場所だ。職員室は二階だし東棟である。先生達も、担任以外は滅多に来ることがない。ましてや――四時をとうに過ぎて、大半の生徒達が帰ってしまったこの時間とあっては尚更そうだろう。
「あと五分で時間になりますのでっ!ではトイレにGOしまーす」
空気読まずにトイレに入ってる奴がいたら面倒くさいと思ったが、幸いそんなことはなかったらしい。人がいるトイレを撮影するのは不味そうだが、誰もいない女子トイレなら別に問題ないだろう。人はいなくても、入る機会のない小学校の女子トイレていうだけで興奮するキモオタはいるのかもしれないが。
トイレに入り、鍵をかけ、一度撮影をオフにする。五分間をトークで繋いでも良かったが、生憎今日は話すネタをさほど用意してきてはいなかった。――厄介なことに、子供が少し学校の事情をしゃべったり、個人名をSNSで発信するだけで炎上するご時世なのである。クラスのジュンヤってやつがまじウザイ、なんて話でもしたらまるで自分がいじめをやっているかのように誤解されそうだ。それだけは避けたい。いつもオドオドしていてイラつかせてくれるあいつが悪いのに、被害者面なんてものされた暁には本気で殴りたくなってしまうだろう。
――さて、そろそろ時間かなー。何もしないでただ待ってるのってマジ苦行ー。
スマートフォンのスリープを解除して、動画の撮影を再開する。
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