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雪女のぬくもり
昔、あるところに若い男がいた。男は猟師だった。
ある寒い冬の日、男は山へ仕事に出かけた。しかし突然天候が変わり、猛烈な吹雪が男を襲った。男は遭難した。死を覚悟して歩いていた時、男は山の中にぽつんと建つ小屋を見つけた。
男は体を引きずるようにして、何とかそこへ辿り着いた。小屋の中は真っ暗だったが、かすかに何かが居る気配を感じた。男の意識はそこで途絶えた。吹雪の中を歩き続けた男の体力は限界に近かった。
男は燃える木のはぜる音で目が覚めた。寝ているすぐそばの囲炉裏で薪が燃えていた。囲炉裏から離れた部屋の隅に、女が座っていた。髪の長い女だった。よく見ると雪のように白い肌と整った美しい顔立ちをしていた。
身の回りを見た男は、低い声で言った。
「俺の猟銃をどこへやった…」
「すみません、私の身を守るために、ある場所に隠してあります」
男は立ち上がり、腰に隠していた小刀を抜いて言った。
「お前、雪女だな？」
「………」
女は目を伏せたまま何も答えなかった。
猟師の間では言い伝えがあった。雪女や山姥の類のものだ。人里離れた場所に一人で住む女を人間だと思ってはいけない。取り殺されるか食い殺されるか、どちらにせよ心を許したら命は無いと。その為、猟師には守り刀を身につける風習があった。
男は女に近づき、刀を振り上げた。
女は震え、身を守るように手を上げた。それを見て男は止まった。男は猟師として様々な命を奪ってきたが、人を手にかけた事は無かった。男は躊躇した。
ふと、女の手の平が見えた。火傷をしたように指先が真っ赤だった。男はその手を掴んだ。氷のように冷たい手だった。男の頭に、囲炉裏の火を必死につける女の姿が思い浮かんだ。
男は言った。
「お前、名前は？」
「シノと言います…」
「俺はジンだ…」
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