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皓々と光を放つ球体の中に、白い装束の女が浮かんでいた。
豊かな黒髪、青白い肌、長い手足を折り畳み身を縮めるその姿は…
「珠妃さん…」
天使え一族最後の総帥、珠妃。
「これが聖域の秘密にして、墓守が守り続けたもの…御神体」
要が降り注ぐ青白い光に目を細める。
「死の間際、珠妃が自らを結界で封じ込めたものです。御神体がある場所が聖域となる」
「…死んでるのよね」
「ええ、『結界』の能力が誰かに引き継がれた時、肉体が崩壊し塵と化します」
要は葵を見やり、左手を伸ばす。
細く長い指が、葵の胸元を指した。
「『証』を持ち、継承の儀を受けた者に『結界』は引き継がれる」
そう告げる要の目はどこか不安を帯びた切ないもので、葵は胸を締め付けられる。
「…すみません。『証』が現れた事で、色々と問題が生じることになります」
「なぜ、要くんが謝るの? 」
「想定しても良かった事態なのに、うっかりしてたんですよ…今回の一件で、色々なものが羽化したことがわかっていながら、その…」
要が言いにくそうに言葉を濁し、目をそらすと口元に手を当てる。
「…自制できず」
そんな要の横顔を見上げ、葵はジッと見つめた。
(…照れてる?)
初めて見る表情だった。
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