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「…それでは、こちらで少々お待ちください」
話が終わったようで、要がそう言って席を立った。
カウンターに真っ直ぐに歩いてくる。
終わるのを待ち望んだはずなのに、なぜか急に要と言葉を交わすのが不安になった。
葵は何もせずにいられなくて、必要がないがコーヒーミルを手にする。
目が合わないように目を手元に伏せる口実が欲しかった。
堂形 深鈴が店に入ってきた時に見せた、要の顔が脳裏から離れない。
…要の気持ちを疑う訳ではないし、疑いたくない。
けれど、あそこまで似ている人が現れたら気持ちが揺れて当たり前だと思う。
そう思うのだけど、それは考えただけでとても不快で、胸が騒ついて、嫌になる。
自分でも自分の気持ちがわからない。
「…葵さん?」
カウンターの中に入ってきた要がそっと背中に触れる。
「顔色が悪いですよ」
「あ…、そうかな」
顔に出てしまっていたのかと、葵は焦る。
それでも顔を向けようとしない葵の頬に要は手のひらを滑り込ませた。
体温の低い要の手のひらが冷たく感じるほど、葵は顔を赤らめる。
要のそう言ったスキンシップにはかなり慣れたはずなのに、やけに恥ずかしかった。
堂形 深鈴の視線を感じたのだ。
「…大丈夫ですか?」
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