序章 胎動

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明らかに態度のおかしい葵に、要は眉を潜める。 「うん、平気…」 そう言うと、要の手が頬から離れた。 その代わりのように、要は葵の左手を握る。 カウンターに隠れて見えない、その場所で。 不安を読み取ってくれているような、そんな優しい手のひらに、葵はやっと要を見上げた。 目を合わせると、要が柔らかく微笑んだ。 「…あのさ、お取り込み中悪いけど」 和希が呆れたように溜息をつき、口を開く。 「オレ、なんか仕事すんの?」 要が「ああ…」と忘れていたと言わんばかりに息をつくと声を潜めた。 「和希、当面交代で彼女の警護につく、日中は篠宮さん、放課後から朝にかけてはオレとお前の交代で」 「ちょい待ち、葵の付き添いは?」 「日中は葵の警護、その後彼女の警護」 「なんっだよソレ!労働基準法違反してるだろっ」 声のボリュームを上げた和希に要が口元に指を立てる。 「大学行かずにフラフラしている居候が、偉そうな事を言うな」 「オレ、いつ寝るんだよ!」 「図書館で大概寝てるんだろ…」 「ちげーよっ!アレは冥想!!こう、危険を察知するアンテナをだな、こう…研ぎ澄ませてんだよっ!!」 「違うアンテナだろ…」 「え…ナニ、なんか知ってたりすんの?」 和希が急に狼狽える。     
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