第1章 勃発

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いや、『仕事』な訳だから、仮に要一人で始終ずっとべったり警護でも仕方ないのだけれど… …仕方ない、のか? (それは嫌だ…すごく嫌だっ) 葵は声を抑えて棚に寄りかかる。 これは、きっと完全なるヤキモチだ。 架南に似た顔の、和服が似合い所作も淑やかで、しっかりと自分を持ち芯がある。 そんな人が、要と同じ時間を過ごし、要に…守られる。 側にいて守ってくれる、要は自分だけのヒーローだと知らず知らずに思い込んでいた。 あの腕の中は自分だけのものと自惚れていたのだ。 (バカみたい…) 嫉妬にまみれた自分は、酷く情けない。 溜息を吐いて、葵は再び棚へと本を戻し始める。 その棚の隙間から、向こう側を通り過ぎる女性が見えた。 白いワンピースに桜色の唇、流れる黒髪。 その女性は棚を回り込み、葵の横へと歩いてくる。 「お勧めの本はあるかしら」 口紅の色や髪型は違うが、堂形 深鈴である。 「深鈴さん…」 なぜここに来たのか、その疑問で頭がいっぱいになった。 今の時間は、要が学校、篠宮が警護のはず。 「日向 葵さんですわよね」 ニッコリと形のよい唇が笑みを乗せる。 瞳は笑っていない。 葵が小さく頷くのを見ると、堂形 深鈴は棚に並ぶ書籍を眺める。 「私は昨日、要様の婚約者になりましたの」 そして本を一冊、指先で引き出した。     
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