第1章 勃発

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引き出されただけで受け止めて貰えない本が、バサリと床に落ちる。 「ですから、ご挨拶に伺いましたのよ。要様の恋人の、日向 葵さん」 何を言っているのだろうか… (婚約…、婚約者?) 葵は馬鹿みたいに婚約者の意味を考える。 考えるまでもないのに、違う意味を求めてしまう。 「…婚約者?」 「ええ」 「婚約者って…」 「そうよ」 「え?婚約??」 「…あなた、わざとやっているの?」 うわ言のように繰り返す葵に深鈴は眉をしかめ、睨みつけてきた。 「あ……いえ」 余りにも混乱してしまった。 昨日突然現れた人が、今日突然理解不能なことを言いに来た。 「すみません、頭がついていかなくて…」 要は昨日、堂形 深鈴の父親と会っている。 その場でその話になったと言うことなのだろうか… 婚約者と口にするからには、要も同意してのことなのだろうか。 同意したとしたら… (私は、なんなのだろう) 昨日から要が上の空なのは、これのせい? 戸惑う葵に深鈴がほくそ笑む。 「私は別に婚約者に恋人がいても構いませんのよ。ですが、お父様が世間体を気にされているのです」 深鈴の口元から一瞬で笑みが消える。 「別れてくださらない?」 堂形 深鈴の瞳の中にあるもの、葵はそれが何かを知る。 敵視、だ。 「あの…」 葵は恐る恐る口を開く。     
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