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引き出されただけで受け止めて貰えない本が、バサリと床に落ちる。
「ですから、ご挨拶に伺いましたのよ。要様の恋人の、日向 葵さん」
何を言っているのだろうか…
(婚約…、婚約者?)
葵は馬鹿みたいに婚約者の意味を考える。
考えるまでもないのに、違う意味を求めてしまう。
「…婚約者?」
「ええ」
「婚約者って…」
「そうよ」
「え?婚約??」
「…あなた、わざとやっているの?」
うわ言のように繰り返す葵に深鈴は眉をしかめ、睨みつけてきた。
「あ……いえ」
余りにも混乱してしまった。
昨日突然現れた人が、今日突然理解不能なことを言いに来た。
「すみません、頭がついていかなくて…」
要は昨日、堂形 深鈴の父親と会っている。
その場でその話になったと言うことなのだろうか…
婚約者と口にするからには、要も同意してのことなのだろうか。
同意したとしたら…
(私は、なんなのだろう)
昨日から要が上の空なのは、これのせい?
戸惑う葵に深鈴がほくそ笑む。
「私は別に婚約者に恋人がいても構いませんのよ。ですが、お父様が世間体を気にされているのです」
深鈴の口元から一瞬で笑みが消える。
「別れてくださらない?」
堂形 深鈴の瞳の中にあるもの、葵はそれが何かを知る。
敵視、だ。
「あの…」
葵は恐る恐る口を開く。
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