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「おはようございます」
朝7時半、身支度を済ませてすぐに1階にある喫茶陽だまりに向かう。
「おはよう、要に葵ちゃん」
カウンターの中で笑顔の満琉が出迎えてくれて、一緒に朝食を準備することが習慣になった。
「いつも仲が良いわね。要はもう少し遅くてもいいんじゃない?」
カウンターに座り、新聞を広げる要に満琉が声をかける。
「少し遅いと言っても30分くらいですよ。それなら一緒でいいです」
新聞から目も上げずに応える要に満琉はコーヒーを差し出した。
「ふぅ………ん」
満琉は鼻から声を上げ、隣にいる葵を肘でつつく。
「一緒がいいんですって、一緒がっ」
悪戯な笑みを浮かべる満琉に葵は頬が熱くなった。
「満琉さん、『で』ですよ、『が』じゃなくって」
慌てる葵に満琉が笑い、要が口元だけで笑うと葵を見た。
「あの顔、『が』でいいみたいよ」
要の顔を見て、満琉が葵に耳打ちする。
どっちだって嬉しい。
『で』でも『が』でも、一緒なら…
葵はレタスを指で千切りながら、上目遣いに要を見た。
最近、要はまた眼鏡をかけ始めた。
眼鏡のレンズ越しに見える要の瞳が、氷の張った湖面がその下を見せないように、秘めた何かを思わせる。
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