序章 胎動

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「ほら、見つめ合ってないで、作るわよ」 「…はい」 満琉は何かと冷やかしてくる。 気恥ずかしいのが80%、嬉しいのが20%、主に恥ずかしい気持ちが勝っていてリアクションに戸惑う。 静かにドアノブが回され、短髪に眼鏡、ライダースジャケットを羽織った篠宮が姿を見せた。 スッと伸びた背筋、長い手足に、気品すら感じさせる紳士的な面持ち、それに不釣り合いなライダースジャケットが強く印象に残る。 「おはようございます」 カウンターに座るのかと思いきや、挨拶を交わすと篠宮の足が外への扉へ向く。 「おはよう、今日は早く出る日?」 満琉が篠宮の背中を呼び止める。 「はい、少々調べ物がありまして」 篠宮は隔日勤務のタクシードライバーである。 出勤は午前10時からと普段はゆっくりと朝食をとっている。 どうやら朝食を食べずに出るらしい。 葵は様子を伺いながら、ステンレス製水筒を手に取る。 「のちほどお昼に立ち寄ります」 バイクの鍵を手に店を出ようとする篠宮の後を葵は追った。 「篠宮さん、コレ珈琲だから良かったら」 呼び止めて水筒を差し出すと、篠宮は意表をつかれたのか、しばし沈黙した。 「…いらない、ですか?」 余計な事だったかと水筒を引っ込めようとしたら、篠宮が水筒を掴んだ。     
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