序章 胎動

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「頂きます。お気遣いありがとうございます」 「行ってらっしゃい」 ほんの一瞬、口元に笑みを浮かべてから篠宮が店を出て行く。 口数が少なく、物静かで感情を表に出さないタイプだけに、表情は読み取り難いけれど、葵は篠宮に親しみを覚える。 未だに篠宮の前世が誰なのか知らない。 だけど多分関わりがあったのだと思う。 前世で繋がりがあると、言葉では説明できない不思議な感覚に陥る。 魂の中に宿る記憶なのだろうか。 理屈では測りし得ない、魂の邂逅。 宿命、運命、愛や憎しみ、怒り、後悔…ありとあらゆる想いを乗せて、魂は回帰する。 6階建の店舗兼賃貸住宅であるハイツ・スローネは同じ前世を共有する限られた者たちが棲む聖域。 1階にある喫茶陽だまりは住人たちの憩いの場となっている。
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