95人が本棚に入れています
本棚に追加
「頂きます。お気遣いありがとうございます」
「行ってらっしゃい」
ほんの一瞬、口元に笑みを浮かべてから篠宮が店を出て行く。
口数が少なく、物静かで感情を表に出さないタイプだけに、表情は読み取り難いけれど、葵は篠宮に親しみを覚える。
未だに篠宮の前世が誰なのか知らない。
だけど多分関わりがあったのだと思う。
前世で繋がりがあると、言葉では説明できない不思議な感覚に陥る。
魂の中に宿る記憶なのだろうか。
理屈では測りし得ない、魂の邂逅。
宿命、運命、愛や憎しみ、怒り、後悔…ありとあらゆる想いを乗せて、魂は回帰する。
6階建の店舗兼賃貸住宅であるハイツ・スローネは同じ前世を共有する限られた者たちが棲む聖域。
1階にある喫茶陽だまりは住人たちの憩いの場となっている。
最初のコメントを投稿しよう!