序章 胎動

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「おはようございます、兄上様。今朝のご機嫌はいかがですかね?」 「…たった今、気分を損ねたところだ」 「それは良かった!」 要の眉間のシワが一層深くなる。 この二人、前世では兄弟であり、色々あったらしく見た目では仲が悪い。 利害の一致と言うことで、協力し合っている部分もあるが、最近和希が図に乗り出した。 当たらず障らずで距離を置けばいいのに、と葵は思うのだけれど、和希が何かと要に接触してくる。 「お前はあっちだ」 テーブル席に座ろうとする和希に、迷惑そうに要が言い放つ。 「……​…​あー、ハイハイ」 仕方なさそうに言いながら和希が背を向ける。 兄弟と言うより、頑固親父と反抗期の息子のような、そんな雰囲気だ。 そして……​…​ ぐしゃぐしゃの鳥の巣頭にヨレヨレの上下スウェット姿の男が、大きな欠伸をしてエレベーターホールからのドアを開けた。 ハイツ・スローネ所有者、西園寺 祥吾。 「おはよう…祥吾、貴方のその格好」 満琉が驚ろきを隠せずに眉を上げ瞳を見開いた。 「これから依頼者がくるのよ…」 「あ?そうだっけ?だけどほら、対応すんの要だろ?」 新聞を手に祥吾はカウンターに座る。 「俺はいないと思ってよ」 ギブスをはめた左腕をカウンターに上げ、ヘラヘラと笑った。 最近、祥吾は何かと無気力だ。     
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