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カランカランと乾いた鐘の音が鳴る。
店の扉が開かれ、冷たい風が吹き込んだ。
黒髪を結い上げ、俯き加減に店に入ってきた和装の女。
たな引く袖は鮮やかな緋色、黒い帯はぬばたまの黒髪のようだ。
楚々とした足運びで、女はこちらに向き直ると、ゆっくりと顔を上げた。
「初めまして、堂形 深鈴と申します…」
優しく香るような柔らかい声が紅い唇から発せられる。
葵は思わず立ち上がった。
白く透き通るような白い肌に、大きな二重の瞳、その顔、その声…
「…そんな」
つい驚きが口をついて出て葵は口元に手を当てた。
見れば、満琉も祥吾も和希も茫然と女を見つめている。
間違いない…その女は、架南に瓜二つ。
葵の前世である、架南に…
「本日はお時間を頂戴致しまして、ありがとうございます」
言い終えて、女は深々と頭を下げる。
そして、紅い唇が弧を描き、目元を綻ばせた。
違和感を覚える微笑み。
まるで、その場にいる者達が驚き戸惑っている現状を眺めて楽しむかのような、そんな微笑みだ。
葵はハッとして要を見やる。
要は手にしたカップを持ち上げたまま、微動だにせず女を見つめていた。
軽く開かれたままの唇、瞬きもなく見開かれる瞳、僅かに眉を曇らせ、明らかに驚いている。
…見惚れている?
かつての恋人に生写しのその人に。
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