序章 胎動

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西園寺グループは日本屈指の巨大総合商社である。 そして西園寺の名ばかりの後継者が祥吾であり、表舞台に立ちたくない祥吾は総務二課を立ち上げ特殊な業務を『仕事』とした。 ハイツ・スローネは主にその『仕事』を請け負う場として、住人たちは『仕事』に従事する者として、西園寺に雇われている形態なのだ。 葵一人を除いては… 堂形 深鈴は西園寺グループ傘下、堂形美容外科クリニックの院長、堂形 昌也の令嬢であり、問題事に直面している依頼人だった。 葵はカウンターで食器を拭きながら、テーブル席に視線を投げる。 (綺麗な着物…) こっくりと深く朱い地に、松や枝垂れ桜に鳳凰が舞う振袖、その袖口から白く細い手首が伸びて、満琉が差し出したコーヒーカップを手にする。 テーブルについているのは要と満琉。 普段であれば裏の部屋で依頼人の対応をするのに、今回は要がここでいいと言い出した。 祥吾はソファ席に座り、和希はカウンターに残り、多分それぞれが聞き耳を立てている。 「なーなー…」 和希がカウンターに身を乗り出す。 「いつまでソレ拭いてんの?」 葵の手の中の皿を指差した。 気づけば、5分近く同じ皿を拭いていた。 「気になるんだ?」     
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