墓守の男と新世界

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 説明もなく差し出されたそれを、ひとまず受け取る。特に飾り気のない表紙を開くと、そこには何枚か写真が収められている。アルバムだ。収められた写真は、ありふれた街の風景を収めたものばかり。今となってはこんな風景、滅多に見られないと聞く。 「壊れた家の中で見つけたの。こういう写真がたくさんある家だった。いくつか適当に抜いてもらってきたの。昔って、こういう景色が多かった?」 「ああ」  平凡な住宅街。ちょっとしゃれた雰囲気のマンション。孤独に佇む掲示板。どれも見慣れた、ありふれた光景だ。あまりにありふれているから、知らないはずの場所なのに、何百回も見てきたような既視感を覚えた。 「……今は違うんだったな」 「うん、そう。家はボロボロ、こういうおっきい建物はけっこうな確率で壁に穴が空いてる。この、紙が貼ってあるこれ、何だっけ?」 「掲示板」 「そう、掲示板。掲示板に至っては見覚えすらないもん」 「変わるもんだな」 「ね、そうみたいだね。でもさ、あたし、正直そう言われても全然わかんなくて。だってあたしが知ってる世界って、みんなこんなんじゃないもん。写真で見ても、全然、これが普通には思えない。……だから、さ、昔のこと、ちょっと気になって知りたくなったんだ。おじいちゃん、あたしにいろいろ教えてよ」 「俺に訊くことじゃないだろう」 「おじいちゃんに訊くことだよ。だっておじいちゃん、お年寄りなんだもん」     
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