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……昔の話も、昔の世界の話もする気にならないのは、俺が、死にたい人間だったからだ」
「死にたい? おじいちゃんが?」
老人の告白を、梅子は案外あっさりとした調子で受け取った。そうあってほしいとは思っていたが、少々拍子抜けしてしまう。
「ああ。昔のことだが」
「へー、なんで死にたかったの?」
「……無遠慮だな、梅子は」
率直すぎる物言いに、つい率直な感想を漏らしてしまう。
「え? 話してくれるんじゃないの?」
「ああ……、うん、そう言ったのは俺だな。
……そうだな、きっかけは裏切りだ。俺は身寄りがなく、親の遺産を頼りに細々と暮らしていたんだが、そんな中、とても親しくしてくれた人が泣きついてきた。母親が騙されて、借金を負ってしまったという話だった。哀れんだ俺は親の遺産と……それから、自分で貯めたなけなしの貯金を貸してしまった。貸された本人はその場では感謝の言葉を口にしたのだが……二度と、俺の前には現れなかった。騙されたんだと、かなり後になってやっと気づいたよ。
それだけといえば、それだけだ。だが、凄まじい徒労感を覚えた。何もかもが嫌になって、死のうと思ってここに来た」
「おじいちゃん、ここの人じゃなかったんだ」
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