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「ああ、まったくの無関係だ。電車に乗って、たまたま目についた駅で降りて、そのままひたすらまっすぐ歩いて、目についた森に飛び込んで……それが、この近くの森だった。森に飛び込んだ俺は、おそらく、その状態で数日過ごしたと思う」
「曖昧だね」
「ああ、まともに飲み食いもせずに過ごしていたせいか、精神状態がまともじゃなかったからか……とにかく、そのときの記憶がひどく朧げなんだ。
それでも、俺は死ねなかった。縄を用意して、いつでも首を吊れる準備をしたのに、どうしてもできなかった。
……怖かったんだ。死にたくてここまで来たはずなのに、情けないことに、自分の命を自分で絶つのがとても……恐ろしかった」
記憶の大半はうっすらとした、自分のこととは思えないような曖昧さを保っているのに、あのとき感じた恐怖だけは昨日のことのように思い出せる。縄を結んで、自分の頭が通るくらいの輪を作った。それの先端をしっかりとした木の枝にくくりつけ、縄の輪をぶら下げた。そこに頭を通してみようとした瞬間、そして、実際に縄に首を通してみた瞬間、肌が恐怖で粟立った。『怖い』で頭が埋め尽くされて、何も考えられなくなった。
「他の、死にたいと言っているやつらの思いは、わからない。だが俺は……俺の『死にたい』は、『生きたい』だったんだと、森の中で気がついたよ」
「『死にたい』は『生きたい』なんて、矛盾してるね」
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