墓守の男と新世界

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「ああ、自分でもそう思う。みっともない話だ。……そういう話を嫌でも思い出してしまうから……昔の話は、したくなかったんだ」 「ふうん」  梅子の反応は、やっぱり淡白なものだった。だが小吉は、何か思うところがあったのだろうか。彼女は立ち上がって老人の傍らまで来ると、老人の手に一番近いところで伏せた。その背を撫でてやると、心地いいとでも言いたげに尾を小さく振る。 「じゃあ、おじいちゃんは、昔の世界と今のこの世界なら、今の世界の方が好き?」  梅子はひどく答えづらい質問を躊躇すらせずぶつけてくる。 「……そうだな。今のこの世界は、一人でも生きていける。集落から遠く離れたここにいれば、他者から干渉されることはまずない。人との繋がりに疲れ切った今よりこの世界の方が、過ごしやすくはある。……人付き合い、将来への不安、そういった感情こそが、俺の死にたいという感情の根源にあったもので……それがなくなってしまえば、それは、いとも簡単に生きたいに変わってしまった。  ……森から出て、この、少し開けた場所に出たとき」  家が数軒。小さな畑がいくつか。井戸もあった。もとの住人は自給自足に凝っていたようで、生き抜くのに必要な知識が資料という形でたくさん残っていた。それなのに、ここにあるはずの人の姿だけが、綺麗に失われていた。     
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