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「そこに人がいないと気づいたとき、山を下って、そこにあった住宅街は、ひどい惨状になっていると気づいたとき、何か、とんでもないことが起こったと感じて、ひとまず身の安全を確保するためにここに戻り、そうして、待てども、待てども、誰も帰ってこないのだと気づいたとき、この新しい世界はまるで俺の願望を煮詰めたような……そういう世界だと気づいてしまったとき、ひどく恐ろしかったよ」
「どうして? だって、おじいちゃんの理想通りの世界だったんでしょ?」
「そうだ。願望通りの世界だった。
……ありえないとわかっているんだ。そのようなことは、起こりえない。だが、まるで自分の、よからぬ願いが成就してしまったような、それに多くの人を巻き込んでしまったような、そんな恐ろしい考えがよぎった。
……だから、墓を作っている」
「おじいちゃんがしたことじゃないし、おじいちゃんがやったことじゃないのに、おじいちゃんがごめんなさいの気持ちで、お墓を作っているっていうこと?」
「そうだ」
「変なの」
「そうだな」
――理屈ではない。衝動的な行動でしかなかった。だが、墓を作り続ければ、それが何かの贖罪になるような気がして、少しだけ、形のない罪悪感が楽になれるような気がして、やめられずにいる。
「あたしね、おじいちゃん」
梅子は茶を飲み干して、空になった古びたカップを地面に転がすようにして置く。
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