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「なあなあ、これ持っててくれよ」
秋人さんは、店の外に出るなり、スパークリングウォーターが入った500ミリリットルのペットボトルを振ったあとに、自分のスマホと一緒にホームズさんに手渡した。
「どうして、僕がこんなものを?」
ほぼ無理やり持たされたホームズさんは、嫌な予感がするのか冷ややかな目を見せる。
「今流行りの『ボトルキャップチャレンジ』をしたいんだよ。そのボトルを持って、スマホで撮影してほしいんだ」
「ボトルキャップチャレンジ?」
「知らねーの? まあ、見てろよ」
秋人さんは、ホームズさんから一歩離れて、体を捻り、回し蹴りをする。
どうやら、ペットボトルのキャップを足で開けたかったようだが、見事に空振りして、その場に尻餅をついた。
ホームズさんは、スマホを手に「うん」と頷く。
「とても良い動画が撮れましたよ」
スマホを手に、ホームズさんは、嫌味なほどの笑みを見せる。
「ちげーよ、尻餅つく俺とか、そんなの撮りたいんじゃねぇ!」
もう一回だ! と、声を上げて秋人さんは再び勢いよく回し蹴りをするも、結果は同じで、気がつくと尻餅をついている。
なまじ回し蹴りをする時の姿が、カッコいいので、尻餅つく様子が可笑しくてたまらず、一歩離れたところで見ていた私は思わず笑ってしまう。
「葵ちゃんも、笑うなよー!」
情けない声を上げる秋人さんに、私は「ごめんなさい」と手を合わせた。
「でも、回し蹴りだったら、ホームズさんも上手にできそうですし、お手本を見せてもらったらどうでしょう?」
私の提案に、秋人さんは期待に満ちた眼差しをホームズさんに向けた。
ホームズさんは、仕方ないですね、と息をつく。
「それじゃあ、一回だけ。僕も上手くできるかどうかは分かりませんよ?」
そう言いながら、ペットボトルとスマホを秋人さんに返す。
「おお、お前が成功しても失敗しても美味しいことには変わりねぇ」
秋人さんは、相変わらず正直だ。すぐにペットボトルを手にし、スマホで撮影の準備もする。
「秋人さんは、勢いよく回りすぎるんです。目的はペットボトルの蓋を開けることなのですから、ちゃんと見定めて」
ホームズさんは、少し腰を落として素早く回転する。だが、ペットボトルの前までいくと、少しだけペースを落として、靴の裏で蓋をかすらせた。蓋は、勢いよく回転して上空に上がり、スパークリングウォーターが吹き上がる。
回り終えたホームズさんは、落ちてきた蓋をキャッチして、ふむ、と頷いた。
「こんなところでしょうか。もっとスピードを上げても良いかもしれませんね」
胸ポケットからハンカチを取り出して蓋を拭いて、秋人さんに差し出す。
「…………」
そのあまりに見事な身のこなしに、私と秋人さんは言葉を失くしてしまった。
「どうしました?」
「ホームズ!!」
秋人さんは、突撃するようにホームズさんの腰にしがみつく。
「なんですか!?」
「め、めちゃくちゃカッコ良かった! 俺にその技を伝授してくれ!」
「伝授って……、一回だけと言いましたよね?」
「そんなこと言わずに」
「嫌です」
ホームズさんは、呆れたように秋人さんの体をはがす。その横で、私の頬が熱くなって仕方ない。
「でも、秋人さんの気持ち、分かります」
「えっ?」
「今のホームズさん、すごくカッコ良かったですもの」
「────っ!」
そう言うとホームズさんは、押し黙り、口に手を当てた。ややあって、そっと口を開く。
「……仕方ないですね。もう一回だけですよ」
「ってか、お前はマジで葵ちゃんに弱いな」
「ええ、僕の素敵な婚約者に感謝してください」
「いつもさらっと惚気をぶち込むなよ」
「惚気ているつもりはありませんが」
さらりとそんなこと言うホームズさんに、さらに私の顔が熱くなる。
その後、秋人さんは見事なボトルキャップチャレンジ動画を投稿し、なかなかの話題を集めるのだが、それに気を良くした秋人さんはその後、「NGシーン」と尻餅動画を投稿し、その動画の方が、大きな話題となり大層悔しがっていた。
私はというと、あの時撮ったホームズさんのボトルキャップチャレンジ動画を秋人さんにもらって、時々観てしまっているのは、
……ここだけの話。
〜Fin〜
2019/7/11
京都寺町三条のホームズ12
発売しました
よろしくお願いいたします
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