おまけ③

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「なあなあ、これ持っててくれよ」 秋人さんは、店の外に出るなり、スパークリングウォーターが入った500ミリリットルのペットボトルを振ったあとに、自分のスマホと一緒にホームズさんに手渡した。 「どうして、僕がこんなものを?」 ほぼ無理やり持たされたホームズさんは、嫌な予感がするのか冷ややかな目を見せる。 「今流行りの『ボトルキャップチャレンジ』をしたいんだよ。そのボトルを持って、スマホで撮影してほしいんだ」 「ボトルキャップチャレンジ?」 「知らねーの? まあ、見てろよ」 秋人さんは、ホームズさんから一歩離れて、体を捻り、回し蹴りをする。 どうやら、ペットボトルのキャップを足で開けたかったようだが、見事に空振りして、その場に尻餅をついた。 ホームズさんは、スマホを手に「うん」と頷く。 「とても良い動画が撮れましたよ」 スマホを手に、ホームズさんは、嫌味なほどの笑みを見せる。 「ちげーよ、尻餅つく俺とか、そんなの撮りたいんじゃねぇ!」 もう一回だ! と、声を上げて秋人さんは再び勢いよく回し蹴りをするも、結果は同じで、気がつくと尻餅をついている。 なまじ回し蹴りをする時の姿が、カッコいいので、尻餅つく様子が可笑しくてたまらず、一歩離れたところで見ていた私は思わず笑ってしまう。 「葵ちゃんも、笑うなよー!」 情けない声を上げる秋人さんに、私は「ごめんなさい」と手を合わせた。 「でも、回し蹴りだったら、ホームズさんも上手にできそうですし、お手本を見せてもらったらどうでしょう?」 私の提案に、秋人さんは期待に満ちた眼差しをホームズさんに向けた。 ホームズさんは、仕方ないですね、と息をつく。 「それじゃあ、一回だけ。僕も上手くできるかどうかは分かりませんよ?」 そう言いながら、ペットボトルとスマホを秋人さんに返す。 「おお、お前が成功しても失敗しても美味しいことには変わりねぇ」 秋人さんは、相変わらず正直だ。すぐにペットボトルを手にし、スマホで撮影の準備もする。 「秋人さんは、勢いよく回りすぎるんです。目的はペットボトルの蓋を開けることなのですから、ちゃんと見定めて」 ホームズさんは、少し腰を落として素早く回転する。だが、ペットボトルの前までいくと、少しだけペースを落として、靴の裏で蓋をかすらせた。蓋は、勢いよく回転して上空に上がり、スパークリングウォーターが吹き上がる。 回り終えたホームズさんは、落ちてきた蓋をキャッチして、ふむ、と頷いた。 「こんなところでしょうか。もっとスピードを上げても良いかもしれませんね」 胸ポケットからハンカチを取り出して蓋を拭いて、秋人さんに差し出す。 「…………」 そのあまりに見事な身のこなしに、私と秋人さんは言葉を失くしてしまった。 「どうしました?」 「ホームズ!!」 秋人さんは、突撃するようにホームズさんの腰にしがみつく。 「なんですか!?」 「め、めちゃくちゃカッコ良かった! 俺にその技を伝授してくれ!」 「伝授って……、一回だけと言いましたよね?」 「そんなこと言わずに」 「嫌です」 ホームズさんは、呆れたように秋人さんの体をはがす。その横で、私の頬が熱くなって仕方ない。 「でも、秋人さんの気持ち、分かります」 「えっ?」 「今のホームズさん、すごくカッコ良かったですもの」 「────っ!」 そう言うとホームズさんは、押し黙り、口に手を当てた。ややあって、そっと口を開く。 「……仕方ないですね。もう一回だけですよ」 「ってか、お前はマジで葵ちゃんに弱いな」 「ええ、僕の素敵な婚約者に感謝してください」 「いつもさらっと惚気をぶち込むなよ」 「惚気ているつもりはありませんが」 さらりとそんなこと言うホームズさんに、さらに私の顔が熱くなる。 その後、秋人さんは見事なボトルキャップチャレンジ動画を投稿し、なかなかの話題を集めるのだが、それに気を良くした秋人さんはその後、「NGシーン」と尻餅動画を投稿し、その動画の方が、大きな話題となり大層悔しがっていた。 私はというと、あの時撮ったホームズさんのボトルキャップチャレンジ動画を秋人さんにもらって、時々観てしまっているのは、 ……ここだけの話。 〜Fin〜 2019/7/11 京都寺町三条のホームズ12 発売しました よろしくお願いいたします
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