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おまけのおまけ
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家頭邸の部屋とは違って、マンションのベッドは普通のシングルだ。
二人で横たわるには狭いのだろうけど、密着しているから、あまり狭さは感じない。
私はホームズさんの胸に寄り添った状態で、そっと顔を上げた。
「ところであの……ホームズさん」
静かに尋ねると、ホームズさんは私の髪を梳くように撫でながら、「はい」と見下ろす。その優しい眼差しに、胸が詰まって、目を伏せた。
「葵欲、ってなんですか?」
「葵欲は……葵欲です」
何を聞くんですか、とばかりに答えるホームズさんに、私は苦笑した。
「つまりは性欲、ですよね?」
ぎこちなく尋ねると、ホームズさんは勢いよく体を起こした。タオルケットがめくれ、何も着ていない私の肌があらわになったので、私はギョッとしてタオルケットをつかんで体を隠す。
「何を言うんですか、違いますよ!」
「えっ、違ったんですか?」
「葵欲は、あなたを欲する気持ちであり、心であり本能です。性欲は、ただの性欲です」
「ただの性欲……」
「ええ、ただの性欲と食欲と睡眠欲なら、僕は、食欲や睡眠欲を優先にしますし」
力強く言う彼に、私は、はあ、と相槌をうつ。
「ですが、葵欲はすべての優先順位のトップに立つんです」
「ええと、それはつまり、私限定の性欲?」
そう問うと、ホームズは複雑そうな表情を見せる。
「いえ、あなたとの行為だけではなく、あなたの側にいることも含めてです」
そんなふうに言ってくれるホームズさんに、少し感動してしまった。
「ですが、まあ、あなた限定の性欲といっても間違いではないかもですね。
僕は、あなた以外の女性を抱きたくありません」
そう言ってホームズさんは、再び覆い被さって唇を重ねてきた。
そのキスに酔いしれていると、唇は首筋から胸元へと下がっていく。サラサラとした前髪が体を撫でて、ぞくぞくと震えた。
「って、ホームズさん、もう三回も……」
「私を食べて、ということを言ったのは、あなたですよ?
今夜はもう、覚悟してください」
「っ!」
再び、感じる彼の行為に、私は何度でも翻弄され、気がつくと大きな嬌声を上げている。
たとえ冗談でも彼を煽ることは色んな意味で危険だと、私はシーツの端を握りながら、その律動ほどに強く実感していた。
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