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七月七日。
笹の葉や、五色の折り紙で作った吹き流しといった七夕飾りが、寺町通のアーケードを鮮やかに彩っている。
笹に付けられた短冊には、幼い字で懸命に願い事も書かれていた。
私・真城葵は、寺町通のアーケードを歩きながら微笑ましさを感じていると、顔見知りのお茶屋の女性店員が、「葵ちゃん」と大きく手を振ってやってきた。
こんにちは、と会釈をすると、彼女は息を弾ませて訊ねる。
「これから、バイト?」
「はい」
「今日は、清貴さん、店にいるのかな?」
「ええ、いますよ」
「それじゃあ、葵ちゃんと清貴さんにこれあげる」
渡されたのは、二枚の赤と黄色の短冊だ。
「うちの店前でも、笹を飾っているから、良かったらお願い事を書いて、自由に飾っていって」
「わあ、いいんですか? ありがとうございます」
「いいの、いいの。清貴さんの願い事を見たいってみんなで言ってただけだから」
「えっ?」
「あ、ううん。なんでもない。それじゃあ、清貴さんにもよろしくね」
と彼女は大きく手を振って、店へと戻っていった。
「短冊かぁ」
私の頬が緩む。
もう成人したというのに、こういうことに子どものようにワクワクしてしまう。
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