おまけ②七夕のお話

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ホームズさんは、短冊に視線を移し、 「せっかくですから、書きましょうか」 胸ポケットに入っているペンを取り出して、私に差し出す。 「……はい」 私はペンを受け取って、短冊に願い事を書き始める。 私の願いは、たったひとつだ。 こんなふうに、私を翻弄し、いけずな彼。 だけど、私は彼を本当にすごい人だと尊敬している。 何度、彼の隣にいることに、気後れしただろう。 ――尊敬する人の隣を、堂々と歩いて行ける自分でありたい。 そう書いて、小さく息をつき、裏返しにした。 「なんて書いたんですか?」 ホームズさんも自分の願い事を書いていたようで、こちらに向かって上体を乗り出した。 「え、いえ。内緒です。ホームズさんは?」 「それでしたら、僕もナイショです」 ええっ、と声を上げる私に、ホームズさんは愉しげに笑う。 「今夜は七夕ですし、一年に一度再会できた恋人を祝って、店が終わったら、僕たちもデートしませんか?」 「あ、はい、ぜひ。どこに行きましょうか」 「そうですね。祇園で食事をしたあと、今日は父がいないので、マンションに来て、コーヒーでも……」 意味深な目で見られて、私はその意図を感じ取り、頬が熱くなるのを感じながら、黙って頷く。 「かつての彦星なら、店を放り出して、マンションに連れていってしまうんでしょうね」 そう続けたホームズさん、私はゴホッとむせる。 閉店後、お茶屋さんの笹にこっそりと短冊をつけて、私とホームズさんは、食事に向かった。 二人とも無記名だったけれど、ホームズさんの書いた短冊は、名前を書いていないというのに、アーケード中の人に気付かれることとなる。 その短冊には、とても綺麗な字でこう書かれていた。 ――願わくば、愛する彼女が、ずっと僕の側にいてくれますように。 ~fin~
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