序 章

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―――― ―――――― ―――――――― 今年の夏の暑さは、異様だった。 気温は連日、三十五度を超し、容赦なく照り付ける太陽の熱が痛いほどで、『灼熱地獄』という大袈裟な言葉が、ぴったりと当てはまる。 三十五度を少し下回ると、『今日はそんなに暑くないね』などと言い出してしまうのだから、この暑さに慣れてしまうのに恐ろしさを感じる反面、人の順応性に感心もする。 七月でこれほどの暑さなのだから、これで夏本番の八月になったらどれほどになるのだろう、と懸念していたけれど、八月に入ると猛烈な暑さが落ち着いてきた。 それでも、気温は三十度を超しているのだが、時おり吹き抜ける風は涼しさを含んでいて心地が良く、早くも夏の終わりを感じさせていた。 「良い風……」 店先で窓を拭いていた私は、顔を上げて目を細めた。
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