幸せ

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幸せ

 その夜、僕は山本加奈子のすべてをようやく知ることができたと安心した。僕の油断から御曹司としての僕の破滅を招くことなんか気にもかけやしなかった。 「立山くんは幸せって何だと思う?」 山本の姉さんは問いかけて笑う。 「私は今だと思うな。今が幸せだと思えない人はどんなに幸せになっても 気づかないもの。」 なんか今日の姉さんは妙に哲学的だな。 「僕は幸せだよ。今最高に。」 結局言いたいことはこういう事だろうと思い僕は彼女に気持ちを伝えた。 「あのね、立山くんのお父様が後継者を選んだというニュースは見た?」 「えっ……」  僕は普段テレビを見ない。だから世間に疎くていつもこういうことばかりだ。慌ててスマホで親父の会社の後継者についてググると、そこにはこうあった。 (立山グループの後継者は血縁者からは選ばない!) とニュースの見出しがあった。 どういうことだ?親父は僕に会社を継がせたいのではなかったのか? 「立山くんはもう大会社の経営者の後継者ではないんだよ?意味わかる?」  それなら、一体誰があの親父の会社を継ぐというのだ。そしてそれを知りながら、なぜ山本姉さんは僕と関係を持ったのか?裸の僕を愛してくれるということなのだろうか?会社を継ぐことを望んでいたわけでもないのに僕は錯乱した。 「立山グループの後継者は……。水瀬さんよ。」 山本は力なく言った。 「立山くんのことは好き。御曹司じゃなくても。でも。私不安なの。だって彼女もあなたに執着しているみたいだったから。私今夜限りであなたとは別れるように言われている。ごめんね、立山くん。私あの人が怖い。」 山本は静かに涙するのであった。 そして僕は一人寂しく朝彼女の寝床から去った。僕は今が幸せだなんて思えなくなっていた。そして僕のスマホが彼女のメッセージを受信する。 「楽しかったよ。今はさよなら」と。 僕はニュースをあさる。そうして僕は知る。女性の社会進出のモデルケースとしての水瀬の会社社長就任を。水瀬がただの親父の愛人ではなく、おそるべきコネクションを備えた女帝たる力を持つ女性である事を。水瀬は親父の実業界の恩人の娘さんであること。 そしてその恩人とは噂によると親父から見て年上の女性で、親父はその女性に可愛がられていたようだということも。 混乱する。でも、とりあえず水瀬と会おう。
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