157人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
レール
とその時だった。
後ろからトントンと肩を叩かれた。
「立山くん?私というものがありながら、何見知らぬ女子といい感じになっているのかね?」
え。それは紛れもなく山本加奈子、八海佳奈の声であった。
「幹部候補生ね?それではこの私を口説くのに出世街道をひたすら歩むための苦難の道に旅立とうというの。なかなかの心がけじゃ。」
「山本の姉さん?」
「レールを歩く勇気、レールを外れる勇気があるけど。私はどちら側の人間だと思う?」
僕はしばらく考えた。レールを歩いているのは山本加奈子でレールを外れているのは八海佳奈だ。つまり両方だ。どちらが本当の彼女なのか?
「どちらかを選ばなくちゃダメかな?」
と僕が恐る恐る言うと。
八海は僕の手を無理やり掴むと
「ついておいで!」
と引っ張り僕を無理やり途中下車させてしまった。
「今はレールを外れる八海でいたいの。だって、立山くんが出世して立山グループの総帥になるころには、私今よりおばちゃんになってしまうもの。そんなに私待てるほど我慢強くないわ。」
そうか、そういうことか!僕は勘違いしていた。レールを走り続けるではなく、レールを外れ続けるのではなく、どちらかを気分で自由に選ぶ。それが彼女なんだ。そしてそんな彼女に僕は魅かれたのだと。
レールを走り続けることもつまらない人生だし、レールを外れ続けるという「レール」に沿って走る人生もある種の予定調和にすぎない。
彼女は言う。
「今は脱線しよ?そのあと私と一緒に走る人生を楽しもうよ。」
風が強い。この風が吹き終えるころにはきっと春がやってくるだろう。
すがすがしいその風とよく晴れた天気。
そうだこれから彼女との人生を疾走することを僕は誓おう。
「今は脱線するよ!そして山本加奈子さん、君とのレールは脱線しないことを誓うよ。」
あげる指輪はないが、そんなもの二人には不要だろう。
なぜって、僕らはいつも気分で走るレールを選ぶと誓った。
そして、僕たちはとても気持ちが合うから、きっと結果的に同じレールを選ぶに違いない。
今二人で脱線することを選んだように。
「立山くん。ジャンケンしよ?」
え?
「アイコだね。君は人生の勝者だった私とやっと肩を並べたね。」
僕らは二人で顔を見合わせ笑った。
(END)
最初のコメントを投稿しよう!