バッティング

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バッティング

 山本のお姉さんと次に会った時なんて話したらいいんだろうか。しかし、容赦無く時はすぎ次に山本加奈子と会うバイトの日がやってくる。 僕が部屋に入ると。そこには「いつもの」山本の姉さんいた。いつも通り挨拶をし、世間話を一通りする。そして加奈子は切り出す。 「弟よ、クリスマスイブはバイトだね?人生の敗者だね。」 と彼女は僕に軽口を叩く。 「はいはい、人生の敗者です、姉さんは楽しくデートですか?勝者デスネ。ハイ。」 すると山本は真剣な表情に突然代わり、 「I’m yours only at the night of This Christmas Eve.」 と僕に言った。私はクリスマスイブの夜だけはあなたのものよ。か。 「えぇええ。姉さん」 その?それはお誘い? 「断らないよね?自分から言い出したんだから?姉に恥をかかせないでよね……。まさか、断らないでしょうねぇ。」 と伏し目がちにやや上をちらっと僕の方をうかがいつつ言う。 「いちおう言っておくけど、チャンスは今年のクリスマスイブだけだからねっ」 と続けた。 「姉さん、振られたの?まさか。」 とデリカシーのないことを言って断ろうとしたが、 「振るかどうか決めるのはあんただろうがっ!」 と彼女はトドメをさす。 「バイトが終わる頃に塾の前で待っているから、その時返事聞かせてね?」 といって山本の姉さんは授業へとそそくさといってしまった。 さすがに恥ずかしかったのだろう。 一体全体、どうすればいいのだろうか八海佳奈を選ぶか山本加奈子を選ぶかクリスマスイブまでには決めないといけない。しかし、いくら百戦錬磨の八海でも、塾の前で先に待ち合わせをしている山本が圧倒的に有利で、流される性格の僕はきっと、山本さんと素敵な一夜を過ごすことになるに違いないと、僕はその時予感していた。 そう、まさかの八海の引退宣言とそのあとのネット上での暗い噂話に気づくまでは。 八海の予定されていた新作の発売予定が止まり、ネット上で八海佳奈が亡くなったらしいという噂話、そしてそれ以後、八海佳奈の電話にかけても彼女が応えることはなかった。 僕の唯一の希望はセクシー女優が引退する時の目くらましなんじゃないか?というネット上の根拠もない希望的観測だけであった。
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