視線

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 青年は、目を閉じていた。鳥の囀りでも聞いているのかもしれない。性別には驚いたが、想像通り綺麗で繊細そうな人だ。  美しい人と言うのは緊張を加速させる。マスク越しでも当然それは変わらない。  鼓動が早鐘を打つ。それでも引き返せないと、一歩ずつ静かに地を踏んだ。 「……SIOさん、ですか」  目の前に立つ。青年は穏やかな笑みを湛えた。開かれた瞳も、とても綺麗だった。 「はい、キオさんですね。態々来て下さりありがとうございます」 「……と、隣失礼します」  見詰められ、つい逃げてしまう。距離を開けて座り、景色を見る振りをして目を逸らした。  SIOは改まって礼を言って来た。服装については何も気にしていないようだ。  そうして、突拍子もなく雑談を始める。 「キオさん声低いんですね。格好良くて吃驚しちゃいました」 「えっと、ありがとう……」 「あ、そう言えば――」  その遣り取りは、SNSの世界と何も変わらなかった。文字に起こせば、殆どいつもの会話だ。  けれど、それは温かく、優しかった。こんなに温かな人の声は久しぶりだった。
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