温度

2/3
前へ
/16ページ
次へ
 誰もいないことを軽く確認し、装備を外した。外で素顔を晒すのは事故以来だ。  冷たい風が、やたらと攻撃的に感じる。隠してしまいたいとの感情が、外したマスクを強く握らせた。  揺れていた指先が、頬を撫でる。顔の場所を把握したのだろう、手の平が頬に被さった。  とても温かな手の平だった。  記憶するように、確かめるように、優しい指先は顔面をなぞる。壊れた骨格も鼻筋も全て。 「……会えて良かった」 「……僕もだよ」  SIOの中の僕は、本物より幾分良くなっているかもしれない。それでも、受け容れられて嬉しかった。 「キオさん。私、見えてても同じ事を言いましたよ。信じて貰えないかもしれないけど」  敢えて切り出され、少し笑ってしまった。相変わらず彼は純粋で優しい。 「いや、信じるよ」  それに、建前でも良かった。笑顔でそう言ってくれる存在がいるだけで、そう分かっただけで救いになる。 「……ありがとう」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加