温度

3/3
前へ
/16ページ
次へ
 世間は冷たくて、味方などいないと思っていた。けれども、探せばどこかにはいるのかもしれない。  まだ出会えていないだけで、自分を許してくれる存在はいるのかもしれない。  そんな誰かに出会えたなら、少しの勇気が得られるかもしれない。孤独じゃないと思えるかもしれない。  世界が、何も変わらなくても。 「おーい、迎え来たよー」  背後から声がした。手が離れた隙に慌ててサングラスとマスクを着用する。  振り向くと友人らしき男性が立っていた。軽く会釈をしあう。 「もう時間なんだ……」  表情を曇らせたSIOの、右手に優しく触れた。 「今日はありがとう。少しだけ前向きになれる気がするよ」 「……私もです。本当にありがとうございました。キオさん、お互いこれからも頑張って行きましょうね」  握り返された手の平は、まだ温もりを残していた。その温度が、心まで温める。 「うん、お互いに」  進んでは下がって、悩んで折れて。それでも少しずつ、ほんの少しずつでも前に進んで行こう。  貴方のような人と、出会える事を願って。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加