現実

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 好きなだけ眠り、目を覚ますと夕方になっていた。  昨日、昼寝からの夜更かしと言う流れで、遅寝してしまった所為だろう。  届いていた食材を回収し、適当に料理を拵える。そうして食べながらSNSを開く。  未確認分の書き込みを辿っていると、SIOの名前とアイコンが見えた。  時刻は数時間前――昨日の夜中だ。  SIOは夜景を見に行ってきたらしく、写真と共に感動が綴られていた。知らない人が反応していた。  書き込みを見ていると、昨夜と同じ感覚が蘇ってくる。SIOだって、きっと僕は唯の一人で、話さなくなれば忘れてしまうだろう。  空しくなり、ページを落とす。写真で見た夜景を心の中で見てみたが、何だか空しかった。  顔を失ってから、笑えなくなった。誰かといることが苦になって、寂しい人間になった。  全て、この顔の所為だ。中途半端に崩れた、この顔の所為で。  僕の人生から、人が消えた。  時々思う。他者は全員アンドロイドかAIで、本当は元々一人ぼっちなんじゃないかと。  その辺りにいる人間に触れたら、温度がないんじゃないかと。書き込みの向こう側に、人なんていないんじゃないかと。  そのくらい、温もりと言うものから離れて生きている。  声から感じる言葉の温かみも、笑顔から感じる人の温かみも、人が持つ体温も、全てを忘れてしまった。   全て、記憶の中で枯れた。  しかし、習慣と言うのは恐ろしいものだ。気付けばページを開いている。  そうして、人々が発する言葉を、切り取った場面を目に焼き付けてしまう。  SIOの名前を見つけた。もう夜らしい。  可愛らしい笑顔のレトリバー、その横に綴られる言葉は。 〝事情により一週間後ここを去ります。仲良くして下さった皆さま、ありがとうございました。あと一週間だけ、お願いいたします^^〟
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