6人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前、処女じゃないだろう?」
恋人から唐突にそう言われ、中原恵は面を食らった。一つ年上で二十六歳の大木隆とは付き合って半年が経つが、初めてそんなことを言われたため狼狽えてしまった。
「ずっと演技だったんだろ?人を騙しやがって」
「ちょ、ちょっと。いきなり何を言い出すの」
ようやく出た声は酷く震えていた。こんな態度だとかえって怪しまれるのでは、と思ったが、意識しても声は強張ったままである。
「何を言い出すの、じゃねえよ。前々から怪しいと思ってたんだ。でももう我慢の限界だ。今日という今日はハッキリさせてやるよ。お前、浮気してるんだろ」
「そ、そんな訳ないじゃない」
「うるせえ!今更嘘なんかついてるんじゃねえ!本当のことを言えよ」
怒鳴られて、恵はびくりと体を硬直させた。本当に身に覚えのないことなのだが、弁解しようにもなかなか言葉が出て来ない。隆はと言うと、今にも恵に掴み掛からんばかりに興奮している。とにかく話を聞かなければ。恵は自分に落ち着くようにと言い聞かせた。
「う、嘘なんかついてないよ。どうして突然そんなこと言うの」
「見たんだよ。この間、お前が街で男と一緒に歩いてるの。仲良さげだったじゃねえか」
「何それ。私そんなことしてないわよ。見間違いだったんじゃないの」
「見間違えねえよ。目の前ですれ違ったんだから。お前はこっちを見向きもしないでよ…それでおまえは、そいつと一緒にホテルに入って行ったんだよ!」
恵は目をぱちくりさせた。よく見ると、耳まで真っ赤な隆の顔は今にも泣きだしそうである。状況が呑み込めず黙っている恵に構わず、隆は怒鳴り続ける。
「だいたい、いつもメールで会話が噛み合わなかったり、気分屋みたいにころころ性格が変わったり…多分俺たち、合わないんだよ」
最初のコメントを投稿しよう!