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こうなったら証明するしかない、身の潔白を。でも、どうやって?ざわついた心は俄然勢いを増し、恵は片手を額に当てた。
手っ取り早いのはアリバイの証明だが、これはすぐに駄目だと気が付いた。隆が言う浮気の瞬間に、自分がどこにいたかなんて説明のやり様がないと思ったからだ。全て言い訳に聞こえるだろうし、第一時間も場所も分からない。
そもそも、まずは話し合いを出来る段階まで関係を修復することが先決ではないだろうか。自分がいかに純潔であるかを納得させるだけの説明に、恵は思考を巡らせた。
深呼吸をして、立ち上がる。胸の内では依然として嵐が渦巻くが、段々と落ち着きを取り戻してきた。まずは『証拠品』を取って来なければ。押入れから数点を手に取ると、隆の背中の前に正座をした。
「ねえ隆、聞いて」
相変わらず隆はそっぽを向いたまま、恵を見ようとしない。構わず恵は話を続けた。
「私は絶対に浮気なんかしてない。昔から男の人には縁が無くて、正直恐いとも思う。だけど、隆だけは違う。あなたは私が初めて出会った心を許せる男性なの。それだけは分かって」
恵は押入れから取り出した物の中から一つを手に取った。表紙が焼けた、古いアルバムである。中を開くと、家族写真や風景をバックに撮影した写真などが多数あり、いずれも中心には少女が収まっていた。
「これ、見せたことあったっけ。私の子供の頃の写真なの」
アルバムのポケットの中から写真を抜き取った。着物を着た七五三の写真や、可愛らしいドレスを着てピアノを弾く写真。校門の前で撮影された写真など、数枚を隆の背中の前へ並べた。
「これは、小学校に入学したときの写真。これは習い事のピアノのコンクールの写真。こっちは、スイミングスクールで入賞したときの写真よ」
恵が一枚ずつ写真の説明をしていると、隆が振り返りちらりと写真に目をやった。その瞳は、眉を顰め訝し気な様子だった。
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