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「検査結果が出たんだ。いま現在はどうもないが、確実に俺はいまの俺でなくなる」
吐き出した言葉は想像以上に重たいものだった。重たすぎて、その後に続く言葉はなかなか喉の奥から出て来なかった。空気も心なしか重たい。俺は壁に掛かった時計を眺めた。
「そろそろ、時間だ。帰れよ」
面会の時間には制限がある。本当のことを言うともう10分程度時間はあったが、俺には耐え切れそうになかった。
「なんでそんなに冷たくするの……?」
そのとき、渚の弱々しい声が後ろから聞こえて来た。俺はそれに答えてやりたかったが、もう振り向く気力は残ってなかった。
「それも副作用……?」
渚はまた突飛押しのないことを言う。そう思うと、勝手に口元が緩んだ。
「かもな……」
本当は何か言い返してやろうとも思ったが、俺から出た言葉もまた同じくらい突飛押しのないものだった。
しばらくすると、ベッドから気配が遠のき、向こうで病室の引き戸がガラガラと音を立てた。足音がどんどん遠ざかっていく。そして、その音さえも俺の耳に届かなくなったとき、いよいよひとりきりなってしまったと俺は強く思った。
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