言葉を交わせない君に、ありがとう

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言葉を交わせない君に、ありがとう

 4限の後の研究室には夕日が差してくる。  今日来ていた学生は僕と研究室の後輩の2人だったから、後輩が帰ればすっかり静かになった。 「お待たせ、メアリー」  けれども僕は1人じゃない。  彼女を待たせていたのだ。  彼女はメアリーと言う。  僕のことを待ち構えるように窓辺に佇んでいた。  試験管などのガラス器具が夕日を浴びて眩しいくらいに光っているけれど、メアリーはそれ以上に僕をしかと射すくめて捕まえんばかりに存在感を放っている。 「おいで。今日も疲れたね。今日君も授業あったんだっけね」  僕はくたびれて閉口する彼女の肩を抱いて隣の実験準備室に連れて行く。彼女だって授業で別の教室まで行ってやっと戻ってきたのだから疲れただろうね。 「今日はお昼休み君のとこ来れなくてごめんね。授業の発表の準備で人と会ってたんだ」 「……」 「あ、拗ねてるのか?」  僕は彼女のすべすべした頬を撫でてたしなめた。  自然と顔がほころんでくる。  このポーカーフェイスも悪くないね。彼女はシャイなんだ。  笑い上戸の僕には羨ましかったりする。     
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