言葉を交わせない君に、ありがとう

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「何がおかしいんだ」と人にたしなめられることはかなり多くて。まあ面白いなあと思ったことを面白く思うことの何がいけないのかなと感じることもあるけれど。面白いなあと思った時にすぐに笑いに出てしまうのはいかがなものか。 「やっぱり僕のあげたポンチョよく似合うじゃない」  それはレースを基調にしたオフホワイトのもので、彼女の艶かしい体をふんわりと覆ってくれている。雪のように白い体。晴れた日には太陽に照らされて輝き、夜になればほのかに浮かび上がる雪のように、見る者を惑わす。 「今日、もう2年くらいは知り合いの子に、『本名はじゅんじゃないの!?』なんて言われちゃったよ。いやー、びっくりするよね、本当に『じゅん』だと思ってたなんて。ま、向こうもびっくりだろうけど」 「……」  メアリーの手が机にとす、と触れた。 「確かに順番の順って書くんだけどさ。あだ名も昔っから専ら『ののじゅん』だから、仕方ないね。文学部のさ、漢検準1級持ってる友達は、『じゅん』じゃないって言ったら分かってくれたよ。あれは順と書いて『はじめ』と読むって」  そこにたどりつくまでに、「じゃあ『すなお』か?」「『おさむ』か?」というすごいやり取りはあったけど。僕より「順」という漢字をよく知ってるじゃない、って。 「君も、英語の正しい発音で名前を呼んでほしい? メェアルゥィーって、フフ……」  可愛いメアリーとは僕が研究室配属になってから知り合った。     
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