言葉を交わせない君に、ありがとう

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 ポーカーフェイスで本当に喋らない子だけど。  洋服は何を着ても似合うし、骨格はしっかりしているけれど肉付きのいい体は適度に柔らかくて。  僕だって笑い上戸なだけで笑わなければ大人しい。何時間も喋らないで本を読んだり論文に目を通したりできる。実験室にだってこもっていられる。  それ以上にメアリーはいつも静かで。空気に手を突っこむように手ごたえがないコミュニケーションになることももちろんある。  でも、僕の話をちゃんと聞いてくれることに変わりはない。  僕は彼女がいてくれるだけで幸せだった。彼女が最後まで僕の話を聞いてくれるだけで、どれだけ気を楽にさせてもらったか。  付き合いは専ら大学内で済ませた。一緒に外へ出掛けることも家に連れて行くこともできなかった。  僕は今年度一杯で大学を卒業して、高校の理科の教師になる。  残念だけどメアリーとはお別れすることにした。  そのことを告げたのは教員採用試験に合格した秋のことだった。  メアリーはじっと黙って聞いてくれた。  この沈黙にどんな気持ちがあるかは分からない。でも彼女は受け入れてくれただろう。  頬を切るような風が吹く、寒い冬がやってきた。僕はメアリーに例のポンチョをプレゼントした。  洋服だったら喜んで着てくれるかなと思って。  まるで大理石のような白い肌。  やっぱり冬になるとぐっと冷え込んできて。本物の大理石のように冷える体を、少しでも温めてあげられたらと思ったんだけど。  それ以上に冬の空気は冷酷だった。ポンチョごとメアリーを氷の中に閉じこめてしまうように。     
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