言葉を交わせない君に、ありがとう

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   寒い2月だった。 「ののじゅんさーん、もう教授陣も出ましたから、会場行きますよー?」  この日は卒論の口頭諮問兼発表会だった。これをもって卒論の発表は全て終わりで、卒業の認定を待つのみになる。  そして人が集まっていることもあってこの後研究室のメンバーで打ち上げに行く。実のところそんなにいない。教授陣含めて5人だ。  僕は準備室に呼びに来てくれた後輩を振り返った。  僕の腕の中には、もちろんメアリー。  当然彼は知っている。僕とメアリーのことを。 「……ののじゅんさん」  僕は彼に背を向けてメアリーにあげたポンチョを大事に着せてやる。 「メアリーは僕と出会った時から、何にも汚れてなくて綺麗だったよ。授業で動くんだから骨折くらいはしたことあるんじゃないかと思ったけれど、それもなくて」  口づけだって布の味だ。何も染みていない。  僕の足元にはさっきまで纏っていた白衣。  彼が今それを拾い上げて、机の上に置いてくれる。 「――メアリーのこと、君に頼んでもいいかな」 「本当に俺でいいんですか?」 「誰でもいいってわけじゃないんだ、当然。――大丈夫だよ、嫉妬なんてするわけないじゃない。だから頼んでいるんだ」 ――その代わり、埃なんかかぶせるなよ。  机に手を付く。  肩が震えるのを抑えられない。 「アハ、……っ、埃なんかかぶせたら、承知しないからね……、骨折は仕方ないよ、君はそういう手当て得意だろ? ハハ……」  決して彼の方は見られなかった。  頭を垂れる僕。 「ののじゅんさん」 「だから、お願いします。本当に……」 「――打ち上げの場所知ってます?」 「え、……メールで回ってきてたところだろ?」 「そうです。――最後くらい、いいじゃないですか」 「……」 「ののじゅんさんに愛されて幸せなんじゃないですか。俺は彼女が羨ましいですよ。――いや、俺が彼女を羨んだら、俺がののじゅんさんを好きで嫉妬しているみたいなので語弊がありますが」 「言ったよね、嫉妬なんてないんだよ。メアリーをめぐって」 「ですので、まあ、最後くらい、思いきり愛してやってもいいんじゃないですか」
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