初恋のはじまり

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 初恋の始まりはいつだろう。恋を知らない僕が恋に目覚めるきっかけって何だろう。可愛い顔? 綺麗な声? それとも優しさ? どれも違う気がする。もっと淡い、紅茶のパックをコップに入れておいた水に入れてゆっくりじっくり溶かしていく、ぐるぐる回りながら着色していって、水にはもう戻れなくなる、あんな感じなのかもしれない。  恋に落ちる、というのはなんだかしっくりこない。そんなのはひと目惚れかただの思い込みなんだと思う。そもそも恋心自体、脳のバグなんじゃないかと思う。脳みそを食べる虫バグになって、頭の中を空っぽにしていく。  長い間一緒にいたから、いないというのが想定できていなかった。小さい頃からいつも隣りにいたのに、もう隣にはいない。でもだからといって寂しいとか悲しいとかそういうのじゃなくて、もっとこう、お腹がすいたときのあの感覚に近い。おなかと背中はくっつかないけど、気付いたら手のひらとほっぺ、肘と机はずっとくっついていた。 「歩美ロス、か」 「そんなんじゃねぇよ」 「まさか転校とはなぁ、はは」  肩をポンポンと叩いて慰めてきた同級生の顔も見ず、窓の外をありんこみたいにきれいに並んで走る車をただただ眺めている。  そんなんじゃない。そんなはずはない。別に大丈夫……だと思うっぽい確率が高いのかもしれないっぽいという予想をしてみる。訳がわからない。自分で自分がわからない。ため息が出る。  いなくなって分かるこの感情。そういえば可愛かったかも、そういえば綺麗な声してたかも、そういえば優しくて世話好きで明るくてよく笑ってて、悔しいときにはすぐスネて、悲しいときにはすぐ泣いて、嬉しいときには、俺にすぐに報告しに来る。歩美はもう、いない。  そうか、これだったんだ。腑に落ちた。  初恋の、はじまり。
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