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ミケがやってきたのは、桜の舞う春のことだった。
公園で散歩している時に、やたらと懐いてくる猫が居て。かわいいので撫でていたりしていたら、家まで着いてきてしまった。
その猫は、そのまま私の家の飼い猫に収まることになった。
「ミケ、ご飯だよ」
「ごあ~ん」
「すごいね~、ご飯って言えたね!」
他の人が聞いても「ご飯」と言っているようには聞こえないだろうが、飼い主には「ご飯」と聞こえるから親馬鹿ぶりも度を起こしている。
毎日こんなやり取りをしているが、ミケは私が姿を見せないと不安そうに「にゃ~ん、にゃ~ん」と探すように哀愁を込めて鳴き始める。
「ここにいるよ~」
布団の合間から声を掛けると、安心したように。ベットまで乗ってきて、布団の中に入ってくる。
その温かさに寝汗でぐっしょりとしながら目を覚ますのが日課になりつつあった。
ある日寒くなったので、仕舞っていたコタツを出した。
こたつ布団を掛けてみると、すぐにミケはこたつの中に入る。
それを見た私は、前に飼っていた猫を思い出した。
その子は、子猫の状態で家にやってきて、ミルクを数時間ごとに飲ませる必要があるぐらいの小さな子猫だった。
夏に来たその子猫は、冬になってこたつを出すと、どうやって使う物なのか分からず、敷布団の下から潜ってしまう癖がついてしまった。
何度も教えてやっと覚えたが、それはこたつを仕舞う春になってからの事だった。
その猫とは残念なことに、私が長期の入院している間に預かってもらっていた家になじんでしまって、預かり主に「返すのが辛い」と泣かれ、泣く泣く諦めた経緯がある。
前の猫がそんなだったからミケの行動は、以前人に飼われていたことを認識させた。
着いてこられた時は、まだ再入院の可能性もあったので躊躇ったが、じっと見つめる瞳を避けることは出来なかった。
公園で寂しそうに人間を見つめていたミケ。
その記憶の中で、どれだけ悲しい思いをしてきたのだろう。
そう思うと居た堪れなくなった。
今ではこたつの中を覗くとだらんと手足を伸ばして、だらしない恰好で眠るミケが居る。
「温かいかい? ゆっくり休むんだよ」
ミケに話しかけると「ごあ~ん」と返事をしてきた。
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