第1章

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* 帰り道はひどい渋滞だった。もうかれこれ30分以上、ほとんど前に進んでいない。 式場から直接、車で僕のマンションに向かうところだった。 はじめのうちは、これから始まる新生活に胸を躍らせていたが、だんだん苛立ってくる。待つのは嫌いなのだ。せっかく帰る時間に合わせて頼んでおいた料理も、台無しになってしまうじゃないか。 「クソ、なんでこんなに渋滞してるんだ」 僕は苛立ちながらハンドルに爪を食い込ませた。 「前のほうで事故があったみたいよ」 助手席に座る美咲が、見て、とナビの画面を指して言う。 画面には夕方のニュース番組が映っている。その上に、速報を報せるテロップが流れだした。 『◯○交差点前で、衝突事故発生。5キロほどの渋滞がーー』 誰だよ、このめでたい日に事故なんか起こした奴。 僕は内心文句を言いながら、何気なく画面を見ていた。 『川上喬さん(35歳)死亡』 「川上……?」 何かが引っかかった。その名前をどこかで聞いたことがある気がした。しかし、思い出せない。 僕が知っている名前などたかが知れている。式の出席者の中に同姓同名がいたのか、それともどこかの有名人の名前か……。 「どうかしたの?」 「……いや、なんでもない」 苛立っているから、余計なことが気になるのだ。そして、わからないことがさらに苛立つ。 マンションにたどり着くまでに、30分で着く距離のはずが、2時間もかかった。 美咲は緊張で疲れていたのだろう、隣ですやすや寝息をたてて眠ってしまった。白いブラウスに淡いピンク色のスカート、ヒールを履いたすらりとした白くて長い足。ドレスや和装姿も見事だったが、美咲は私服姿でも充分美しい。本当に、僕にはもったいない女性だとつくづく思う。 真っ白なオーラに包まれた美咲の寝顔は、天使のように美しく、苛立った気持ちをほぐしてくれた。
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