第1章

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人の色が視えるようになったのは、中2の夏休みが始まる少し前のことだった。 その頃のことは、今でもはっきりと覚えている。忘れたくとも、きっと一生、忘れることはないだろう。 8月31日目。夏休みの最終日に、翔太が死んだからだ。 避けようのない交通事故だったと、そんなふうに担任の教師は言ったが、僕は、翔太が自分から道路に飛び出したように思えてならなかった。 翔太は注意深い奴だった。自転車のブレーキは壊れてなんかいなかった。 交通事故ということにしたかったのは、学校側の勝手な都合だろう。 その証拠に、翔太がイジメを受けていたという僕の主張は、黙殺された。僕自身のこともだ。 事故に遭う数日前、僕は翔太に会っていた。 翔太がいきなり、僕の家を訪ねてきたのだ。何か用があるのかと思えば、とくに話すこともなく、黙々とゲームをしていただけだったが…… そのときの翔太は、薄ぼんやりとした水色に近い白いなにかに包まれていた。 もしかしたら翔太は、ぼくになにかを求めていたんじゃないか…… 口にはしなくとも、助けてくれと言っていたんじゃないか…… 葬式で見た、棺の中で眠る翔太には、なんの色もなかった。 代わりに、参列者の誰もが、なにかしらの色を纏っていた。 長いあいだ、物事を深く考えることを避けてきた。頭の中を株や経済のことで埋め尽くし、人と会うことを拒んだ。 だから忘れていたのだ。 色が濃い者、薄い者、色は、生者の色。 白は、死にゆく直前の、死を暗示する色。 そして、死んだら透明になる。 それを僕は、識っていたはずだった。
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