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20歳のときに株で成功し、大金を手に一人暮らしを始めてからも、外出は極力避けた。部屋の外に出るときと言えば、数日に一度、エントランス脇に部屋別に設置されているポストに郵便物を取りに行くときくらいだ。それ以外は、基本的になんでもデリバリーで賄えた。金とネット環境さえあれば、部屋から出なくても生活できるのだと知った。
そんな僕が、こんな魅力的な女性と結婚できたのは、だから一生に一度の奇跡だったのだ。
「浩一さん、なんだか疲れてるようだけど、大丈夫?」
美咲が大きな目を心配そうに少し潤ませて、僕を見つめる。人形のように長い睫毛、大きく深みのある黒目、彼女に見つめられると、それだけで未だに緊張してしまう。
「……ああ、大丈夫だよ」
額や首筋に汗が滲む。僕は昔から、極度の汗かきだった。拭いても拭いても温泉みたいに湧き出してくるので、もう諦めている。
「そう。あんまり無理しないでね」
美咲はほんのりと淡いピンク色の残る白いオーラに包まれて、にっこりと美しく微笑んだ。
美しい、と思った。
「色白は七難をも隠す」ということわざがあるが、七難どころか、悪いところなど美咲には何一つ見当たらない。とびきりの美人で、でもそれを鼻にかけることなく、僕みたいな地味な男を好きだと言ってくれた。ずっと一緒にいたいと……
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