5人が本棚に入れています
本棚に追加
*
お色直しのために一度退場し、控え室に戻ると、どっと疲れが出てきた。
ウエディングドレスの次は、和装に着替えるという。男は一度の着替えだけで楽だが、女性は大変そうだ。それなのに、美咲は僕とは違って緊張も疲れも見せず、終始楽しそうな表情を見せていた。
「ちょっと、御手洗いに行ってくるよ」
ひとりだけ疲弊しきっている自分が情けなくて、僕は席を立った。
「ええ、いってらっしゃい」
トイレに向かおうとすると、できればあまり出くわしたくはない連中の姿が見えた。美咲の友人たち4人組だ。顔を合わせるのは億劫だったが、トイレに行くためには、前を通らなければならない。
遠回りになるけれど、違う階のトイレに行こうか……そう思っていたときだった。
「それにしてもさあ、意外だよねえ」
壁の向こうから、女の嫌みたらしい笑い声が聞こえてくる。
「え?なにがー?」
「美咲の旦那だよ。びっくりするぐらい冴えないんだもん。マジで?って思っちゃった」
「あーわかる。なんかやばいぐらい汗かいてたし」
「アレと手繋ぐとか無理ー」
僕はチッ、と小さく舌打ちした。だから嫌なんだ、こういう低俗な奴らと関わるのは。
仲のいいふりをして、影では平気な顔で悪口を並べ立てる。それが美咲という美しい友人への、羨望や嫉妬からくるものなのは明らかだった。
4人がスマホで見ていたのは、さっき撮った写真だった。後で笑い者にするつもりだったのだと思うと、余計に腹立たしい。
最初のコメントを投稿しよう!