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ガタンッ
ガタンッ
足場の悪い道のお陰で
車の後部座席で眠っていた僕は
少し大きめの石に乗り上げた車が大きく揺れ
その拍子に窓ガラスに頭を打ち
見事に起こされてしまった。
ヒロ「って・・・・」
なんでこんなに揺れてるんだ?
イライラしながら寝ぼけ頭で考えると
答えを出すのに数秒はかかってしまった。
そっか。
引っ越しだ。
前にある時計を見ると
引っ越しのトラックを見送り
数カ月だけを過ごしたあの街を出てから
3時間ほどがたっていた。
窓の外を見ると石がむき出しでゴツゴツの
整備されていない道。
どうりで揺れるわけだ。
反対側の窓の外を見ると
畑、畑、畑、民家。
高くそびえる木々と深く蒼い海。
小学5年生の秋。
父親の仕事の都合で
この中途半端な時期に
海に面したとある田舎町に引っ越してきた。
『超ド田舎』
それがその町に対する最初の感想だ。
その前にいた場所はまあまあ栄えた街で
すぐにコンビニやファーストフード店があり
どこにいても人がいるような所だった。
星砂町(ほしすなまち)。
名前は可愛らしいのに
残念なほどド田舎。
完全に名前負けしてる。
ここは色とりどりのライトなんてないし。
やたら耳障りな音楽も流れていない。
こうなってはそれさえも
恋しいと思えるほどだ。
寂しいというよりも
静かすぎてちょっと怖いくらいの町。
住宅地に入ってきたのに
未だ誰の姿も見えない。
最初から嫌だと
思い込んでいたせいもあるだろうが
受け入れがたい現実を目の当たりにした気分。
こんな町で暮らすのかと
ガッカリして溜息をつくと
それに気づいた父が
3時間も運転していたのが嘘のように
元気な声で話しかけてきた。
父「ヒロ~、起きたか?海が見えるぞ!?」
疲れているはずの父の声はイキイキとして
むしろ元気すぎるくらいだった。
なんでこんなに元気なんだよ・・・・。
小学生の俺よりも
引っ越しにウキウキとしている父が
正直うっとおしい。
だが、いくらうっとおしくても
そういう態度を取れない僕は
仕方なく倒していたシートを起こし
窓の外を見た。
ちょうど海岸線に入ったところで
目の前には海が広がっている。
深すぎる青。黒っぽい。
波がうねり今にも飲み込まれそうだ。
・・・・いやだ。
早々に『この町嫌だ』宣言。
キラキラと光る街
賑やかな音、
誰だか知らないけど
人が沢山いた場所に戻りたい。
そういう場所なら紛れていられるのに。
誰とも関わりを持たなくても
不思議に思われず
一人でいることも平気だったあの場所。
この町にできる工場の立ち上げに
父が責任者として派遣された。
父の仕事はそういうものばかり。
新しい工場が出来たらそこへ行く。
だから僕たちはこれが
多分5度目の引っ越し。
母は父の仕事に文句ひとつ言わず
むしろ楽しんで付いていく。
振り回される子供の身にも
なってほしいよ。
。
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