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引っ越し先はその町にあった古い家。
そこに住んでいた人は
みんな隣町に引っ越してしまい
父さんの勤める会社が
社宅として買い取った。
荷物は全て引っ越し業者が運び入れてくれて
その日は荷ほどきの半分をやり終えた。
そして引っ越しの翌日、
僕は母さんに連れられて
早速新しい学校へ行った。
校長先生は定年間近のおじいちゃんで
ニコニコと笑いながら僕を迎え入れてくれた。
担任は若い女の先生で
母さんや父さんと同じくらいの年齢だと思う。
そのせいかすぐに少しだけ親しみを覚えた。
先生「結城君、先生と教室へ行きましょうか。」
ヒロ「はい・・・・」
歩けばギシギシと音を立てる廊下を歩き
5年生の教室へ向かう。
廊下の窓の外には
少し赤みがかった木々が見えていた。
ざわざわ
先生に連れられて入った教室では
みんなが僕の方を向いて
何かを言っている。
それはどこに行っても同じ光景で
呆れるくらいのワンパターン。
先生「今日から仲間になる結城 紘(ゆうき ひろ)君です。みんな仲良くしてね~!!」
生徒「はーーい」
田舎町の5年生は9人ほど。
全校生徒合わせても30人くらい。
かなり小規模な学校。
校舎も全部前にいた場所と比べて
小さくて古くて昔臭い。
ヒロ「結城です。よろしくお願いします。」
パチパチパチとまばらな拍手。
歓迎されていないんだろうと思った。
人が少ないんだからそうなるよな。
よそ者の僕は仲間に入ることすら
難しそうだった。
小学生の間に転校したのはこれで3度目で
いい加減そういう空気にも慣れてきたけど。
仲良くなるつもりもない。
そういう努力は2回目の転校で
やめることにした。
先生「結城君の席はあそこね。広瀬さんの隣。」
先生の指さすほうを見ると
窓際に座る女の子が手を上げていた。
広瀬「私、広瀬花音(ひろせかのん)。よろしくね!!」
ヒロ「よ、よろしく・・・・」
カノンはお人形のような整った顔で
良く笑う明るくて活発な子。
絶対に人気あるなこの子って
最初の印象ですぐにそう思った。
だって・・・・
不覚にもこの瞬間、
カノンの笑顔に見惚れてしまったから。
母「お帰りなさい。学校どうだった?」
帰るなり母がすごく
キラキラした笑顔で迎えてくれて
僕はいつもそれにホッとする。
何度も繰り返す転校にも
どうにか耐えてこられたのは
母がいつも温かく出迎えてくれたからだと
密かに思っている。
ヒロ「別に。普通だよ。」
母「あら?ヒロ君、反抗期?お母さんと話すのイヤ?」
ヒロ「そういうんじゃないけど・・・・・」
母「ふふっ(笑)転校生の憂鬱ってやつね!まあ、なんでもいいけど楽しまなきゃ損よ??」
母の底抜けの明るさに
僕は逆に悩みを打ち明けられない。
『本当はこんなところにいたくない』
そんなことも言えずに
腹の中にため込んでいた。
。
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