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飯でも買いに出かけているのかもしれない。
携帯くらい持って出ればいいものを。
俺は友人の無残な姿の第一発見者にならずに済んだことに安堵した。
我ながら薄情だと思う。
そうとなれば長居は無用。俺は早々に部屋を出て会社に戻った。
結果的に言えば、藤宮の客の女は死んでいた。
ホスト遊びに多額の金を注ぎ込んでいた女は、相当な借金を重ねていたらしい。
藤宮の部屋の契約者になれないだろう、申し訳ないと書き残し首を吊って死んだ。
部屋や藤宮との詳しい話を聞くために後日警察がやって来て判明した。
そんなこと藤宮の方に直接話を聞けばいいと思うだろ?
藤宮は朝、俺が去ったすぐ後にコンビニに行ったようだ。
そしてその帰り道、近所のビルからたまたま飛び降り自殺を謀った母子に巻き込まれて……。
「こんなのただのハッタリみたいだよな、お前も信じてないだろ?」
すっかり饒舌になった高原はそう言って自嘲気味に笑った。
酒を一滴も飲んじゃいないのに、高原の目は据わっている。
俺はゴクリと生ツバを飲み込んだ。
「俺が殺したんだよ、友達と、知らない女まで」
いつの間にか沢山の客の声も気にならなくなっていた。
高原のボソボソと低い声だけがやけに響く。
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