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泣いてるような、怒っているような、何とも言えない苦悶の表情を浮かべる高原を、俺はとにかく刺激しないよう見守った。
そこかしこから聞こえてくる大きな笑い声や、食器のぶつかる音でさえ高原を刺激してしまうんじゃないかと気が気でない。
こんなことなら違う場所に行けば良かった。
いや、静かな場所で今の高原と対峙する方が恐ろしいかもしれない。
「なぁ、何があったか順に話してくれよ。ちゃんと聞くからさ」
俺の言葉に高原は少しだけ落ち着きを取り戻したのか、大きく深呼吸をして呟いた。
「……担当地区にあるマンションに……問題があった」
高原の前職は大手不動産会社であった。
日本全国に支店がいくつもあり、CMもよく流れている。
「問題?」
「……ああ、一部屋だけ」
高原はぽつりぽつりと語り出した。
――そのマンションは駅近くにあった。
9階建て、各フロアに4戸。間取りは2DK。
利便性はもちろん、広さもデザイン性も申し分ない。
実家が裕福な大学生や転勤族のサラリーマンに人気だった。
築年数10年と新しくはないものの常に人気物件で、春先や秋口に部屋が空けば一瞬で埋まるような状態。
しかしその中の一室……302号室を除いて。
新卒で俺が入った時点で、302号室は空室だった。
こんなに人気の物件なのにおかしい。
所謂"事故物件"というやつだろうか。
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